映画『69 sixty nine』のロケ地・立神の煉瓦倉庫で語った「街の記憶とこれから」
映画『国宝』の美術監督・種田陽平さんが約20年ぶりに佐世保を訪れ、映画『69』のロケ地である「させぼ立神近代化歴史公園」の煉瓦倉庫にて特別トークセッションが開催されました。街歩きや仲間との再会を通して、美術監督ならではのまなざしで見つめた佐世保の魅力と未来をお届けします。
登壇者プロフィール
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種田 陽平(たねだ・ようへい)美術監督/ ゲストスピーカー
日本映画界を代表する美術監督。映画『69 sixty nine』で佐世保ロケを手がける。映画『国宝』において、毎日映画コンクール美術賞や日本アカデミー賞最優秀美術賞など数々の賞を受賞。国内外の映画、展覧会、舞台美術など幅広く活躍中。
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水嶋 智(みずしま・さとる)顧問/ ゲストスピーカー
1963年京都府生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年運輸省(現・国土交通省)入省。観光庁次長、海事局長、鉄道局長、大臣官房長、国土交通審議官などを経て、国土交通事務次官を務める。現・国土交通省顧問。
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永井 美穂子(ながい・みほこ)さん/ ファシリテーター(司会進行)
長崎県佐世保市出身。元佐世保市役所職員で、在職時に佐世保バーガーの全国的なブランド化に尽力。退職後も種田氏や水嶋氏との温かな交流が続いている。
種田陽平美術監督×水嶋智顧問 特別対談:物語を生む佐世保の風景、人を惹きつけるまちのつくり方
トークセッションの舞台となったのは、今年11月21日(土)にオープンを迎える「させぼ立神近代化歴史公園」の敷地内に残る煉瓦倉庫です。明治21年(1888年)までに完成した旧海軍の弾薬包庫であり、佐世保鎮守府の始まりを告げる貴重な近代化遺産。実はここ、『69 sixtynine』で米軍基地近くのクラブ「BLACK ROSE」のセットが組まれたロケ地でした。
壇上に立った種田さんは、懐かしそうに赤レンガの空間を見渡し、「まさにこの場所で、バーカウンターを作ったり、倉庫の前には大きな鳥居を建てたりして撮影しました。新しく生まれ変わる節目の日に、こうして戻ってこられたことが本当に感慨深いです。」と。
当時のイメージスケッチや現場写真をスクリーンに映し出します。 「2004年の街に、1969年の佐世保を作らなければいけない仕事だったので、場所探しは本当に大変でした。」と種田さんは振り返ります。アーケード街での大規模な設営は難しかったため、小路の「シューズセンター通り」に目をつけ、当時の写真を参考にレトロな店構えを作り込んだそうです。
熱気あふれる昭和44年の空気を立ち上げるための工夫が語られると、客席の参加者たちも興味津々で聞き入っていました。
ノスタルジーではなく「現在形」で撮れる街
対談は、映画美術と都市政策というそれぞれの視点から見た「佐世保の都市としての魅力」へと深まっていきます。
長年全国の地域づくりを見つめてこられた国土交通省の水嶋智さんは、佐世保について、こう語りました。
「人口20万人規模の都市は全国にいくつもありますが、佐世保ほど強烈な個性を持っている街は他にありません。港、米軍や海上自衛隊、巨大な造船所、美しい九十九島、そして日本一元気なアーケード街。クルーズ船が都心のすぐ近くに接岸できる港も全国でごくわずかです。様々な魅力がコンパクトに凝縮していること自体が、佐世保の大きな強みなのです。」
永井さんから街の印象を尋ねられた種田さんは、映画の舞台としての佐世保の魅力をこう語ります。
「撮りたくなる風景があるだけでは、ドラマや映画にはなりません。佐世保には、人の動きや戦後の勢いといった、物語を生かすワクワクするものがある。そして、決してノスタルジーじゃない。古い風景を撮りに行くと、どこか後ろ向きな気持ちになりがちですが、この街にはそれがない。いい意味で“現在形”で撮れるんですよね。」
100年の歴史と、日常の隙間にある「異日常」
歴史の継承について、京都出身の水嶋さんが親しみやすい視点を投げかけました。歴史が長いことが価値を高めるという視点もありますが、『1000年の歴史』は遠すぎて暮らしが想像できません。しかし『100年の歴史』なら“おじいちゃんが生まれた頃かな”と身近に想像できます。近代国家が立ち上がった頃の熱気が、今の暮らしのすぐ隣に残っているのが魅力だと思います。
永井さんも「ほかの地域にに比べて、佐世保は歴史が浅いと思われがち。でも100年の歴史も立派な歴史で、私たちの大事なもの。大事にしないといけないですね。」と頷きます。
さらに旅先としての魅力について、水嶋さんは「異日常(い・にちじょう)」というキーワードを提案しました。水嶋さんは今回の滞在中、松浦鉄道の佐世保中央駅から電車に乗ったり、朝の市場を歩いたりしたそうです。
「アーケードの真ん中を電車が走るなんて、日本でもすごく珍しい。シャッターもほとんど閉まっていなくて、日本で一番元気なアーケードの一つです。佐世保中央駅には89歳になる日本最高齢の駅員さんが元気に立っていらっしゃる。朝早くから開いている花屋さんや魚屋さん、店先に並ぶウチワエビに目を留めました。特別な非日常のリゾートだけでなく、その土地の普段の暮らしを少し覗かせてもらう“異日常”こそが、旅人にとって最高の贅沢です。」
人と人との引力が、これからの佐世保をつくる
終盤の質疑応答では、「佐世保をもっと知ってもらうには?」という問いに対し、種田さんから具体的なアイデアが示されました。「佐世保という響き自体に強い力があります。『佐世保バーガー』のように、“佐世保+何か”はまだまだ生み出せるはず。そして、この街で撮られた映画やアニメを集めて市民みんなで上映する『佐世保映画祭』をぜひやってほしいですね。若い世代が『自分たちの街はこんなに物語の舞台になっているんだ』と誇りを持つことが大切です。」
対談の締めくくりに、お二人から会場へ温かいメッセージが贈られました。
「まちづくりで一番大切なのは『人と人とのつながり』です。人が旅に出る最大の理由は、『あの人に会いたい』という気持ち。今日集まってくださった皆さん一人ひとりが持つ引力こそが、この街を動かす力になります。」(水嶋さん)
「人と人との出会いが、何かを動かす。世界に何度も戻りたい場所があるけれど、そのうちの一つが佐世保なんです。」(種田さん)
映画の記憶を大切に抱きしめながら、今を生きる人々の手で新しい日常を紡ぎ続ける街・佐世保。
種田さんが歩いた佐世保の街を、あなたもゆっくり歩いてみませんか。